黒田藩新陰流師範家

三宅源八郎発行の印可状一例


 修猷館が伝承する黒田藩傳柳生新陰流兵法は、正式な流儀名を新陰流兵法(新影流兵法)と呼称します。

 

 戦国時代に、剣聖上泉武蔵守藤原信綱が、当時の三大流儀であった陰流・念流・新當流を極め、その奥儀を集大成して興した流儀が新陰流(新影流)と言われています。

 

 当会の新陰流は、第二代柳生宗厳が、信頼の厚かった高弟の大野松右衛門尉家信に柳生姓を許し、天正15年2月吉日(1587年)に一国一人の皆傳印可(印可状には『新陰流兵法』と記載)を授けた事により、その歴史が始まりました。

 

 当会にあっては、この歴史的事実を踏まえて、柳生家信の印可状に記されている『新陰流兵法』という伝統的な呼称を古くから重んじており、先代から受け継いだ流儀名と黒田藩の伝統を守りながら、今日まで『新陰流兵法』として伝承しております。

 

 最近、当会に対して、無免許で活動されている肥後新陰流の関係者が、誤った情報を流布し、新陰流(新影流)の『陰』の字と『影』の字の違いをもって、正統性が無い、伝統に反すると心無い誹謗中傷を繰り返ししておられました。


 しかし、これは、非常識な会派の誤った価値観と勉強不足に他なりません。

 

 なぜならば、日本の伝統武道を代表する『新當流』が、『神刀流』や『神道流』と古来から当て字で表記されてきた歴史がある様に、新陰流においても同様に、江戸時代において、『陰』と『影』のいずれも併用されてきた歴史や伝統があるからです。


 また、流祖上泉信綱は、弟子へ印可を出す際に、いずれの字体も使用しておりました。この事は、現在している印可状や巻物などの歴史的資料からも明らかであり、古武道の世界では、今や一般常識となっております。

 

 当然、字の違いを根拠に、他の会派の伝統愛や正統性を安易に否定するような事は許されませんし、その様な会派は、健全な良識ある団体とは言えません。


 いずれの表記も正しく、間違いではありませんので、全国で伝統芸能を頑張って守っておられる方々や団体の為にも、代表してここに正しておきたいと思います。

 

 柳生家信傳の新陰流の歴史は、柳生家においては、一般に認知されている江戸柳生家や尾張柳生家の成立期よりも古く、流祖上泉信綱と第二代柳生宗厳の両名に師事したこの柳生家信の傳は、最古の趣きを現代に伝える大変貴重な系統の新陰流であると言われています。


  新陰流は、軍師黒田長政が徳川将軍家の剣術指南役に柳生但馬守宗厳を推挙して、徳川家康が柳生家の新陰流を採用した事で、徳川将軍家の御流儀となりました。

 

 そして、上泉伝来の新陰流兵法は、恩義ある筑前黒田家へと伝わりました。

 

 柳生家信が伝えた古伝の新陰流は、上泉伝来の腰を深く落として斬り勝つ介者剣術の姿を今も色濃く遺しており、タイ捨流剣術にも見られる跳び斬りの抜刀術、当身を使う組討剣術、多数の敵を回転して斬り倒す実戦剣術、流祖考案の赤漆の袋竹刀を使用した荒々しい組太刀が流儀の特長として挙げられます。

 

 また、皆伝印可を授かった柳生家信は、柳生宗厳より、柳生家に伝わる秘伝の無刀取、奥儀太刀、二十七箇条截相と呼ばれる允可之太刀の全てを授けられると共に、上泉の高弟で達人と謳われた疋田豊五郎景兼や穴澤浄見秀俊からも古傳の新當流鑓術、薙刀術を直弟子として相伝し、新陰流と新當流それぞれの極意を後世に伝えました。

 

 昨今、妬みから、他の会派を貶めようと、誤った情報を故意にTwitterなどで流し、誹謗中傷をして楽しんでいる愉快犯的な卑しい会派があったり、


 無免許にも関わらず、正統に印可を受けている他の会派の教伝体系に、殊更に口を挟んで干渉し、礼儀を欠いた非常識な批判をしている会派があったり、


 誓紙などの伝統的な儀式やしきたり、伝位制度が崩壊して、重要な技の理合や口伝が失伝しているばかりか、他者との友愛の精神も欠落して、真面目に伝統を守っている方々へ迷惑をかけている会派があります。


 その様な非常識で、心の貧しい相伝者がいる会派では、古武道を通じて、心を磨き、自分を正しく成長させていく事は出来ません。


 新たな気持ちで、伝統芸能への入門を志しておられる方々は、道場選びをするにあたって、その様な誤った会派が流布する情報に惑わされないように、十分に気をつけて頂きたいと思います。


『きちんと伝統文化が伝わり、正規の免許皆伝者や流儀継承者が指導されている会派なのか』


『印可状を取得出来るなど、本当に努力が報われる会派なのか』


『良識のある健全な門下生が所属しておられる会派なのか』


も含めて、正しく会派を見極めていただく事が大切です。


 近年、有名な伝統流儀であっても失伝や流儀が断絶することも珍しくありません。


 修猷館を通じて、日本の伝統文化を大切に守り、伝統流儀を正しく後世に遺して下さる方が一人でも増えてくれる事を願って止みません。

 

 共に伝統流儀を守り、伝承者として後世に受け継いで戴ける方の御入門を心からお待ちしております。


黒田藩傳柳生新陰流兵法 修猷館



黒田藩伝来の袋竹刀と柳生杖

『一國一人皆傳印可状』の写し

(柳生宗厳から柳生家信宛て)